つぐない
イアン・マキューアンの「贖罪」は、現代小説にして、堂々の古典となったと言えよう。メロドラマから始まり、深い戦争ドラマを描き、現代に飛ぶ第3章ではこの物語のからくりが明かされる。小説では嘘に対する償いだけでなく、小説家という生き物の深い業を描いている。
映画では若いカップルに焦点を絞り、美しい物語が紡がれる。小説では不明瞭だった様々な描写(おそらくそれがこの小説の最大の魅力だろう)が映画ではほぼカットされている。一見間延びしているような原作のけだるい雰囲気はあまりない。コンパクトに品よくまとめられており、ひとつの恋愛ものとして、味わい深い感動がある。どちらがいいというわけではなく、映画と小説の手法の違いをよく理解した上で映像化されているように思う。美しい屋敷と当時の風俗、ナイトレイ演じるヒロインのアンニュイな雰囲気は、原作以上に雄弁だ。そしてこのカップルの失われた時間に重みがあるのは、キーラ・ナイトレイとジェームズ・マカヴォイの素晴らしい演技によるものだろう。
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