誰も知らない

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母親に置き去りにされた子供たちが、社会に知られずに自力で暮らしていたという、実際の事件をもとにした作品。母親は子供に20万円を残し、家を出て、結婚までしていた。そして子供たちは1年余りも誰にも知られずに彼らだけで暮らしていたという。

事件のあらましだけを聞くと、母親への怒りとかやるせなさだとかが先に立つのだが、観ているうちにどうでもよくなってくる。この作品のなかで、子供たちはまったく怒っていないのだった。これはどうしてそうなったのかとか、誰が悪いとか、そういう物語ではなくて、ただ子供たちの生きる強さを証明してみせた作品だと思う。そしてその命がどこにあるのかってことを証明するために、演じている子供たちそのものの存在を時間をかけて見つめていくことに徹している。ストーリーとしては語られないけれど、演じている子供たち自身の物語が映像に滲み出ていて、明なのか柳楽君なのかわからなくなってくるのだが、そのことが、子供たちが確かにそこに存在していたんだというぬくもりを残しているのかもしれない。

母親に捨てられたことについて子供たちはほとんど話さない。帰ってくると思っているのか、諦めているのかはよくわからないのだが、母親の代わりを努めようと決意したときの明の表情、そして部屋から出ないというルールから開放された妹弟たちの表情が、とてもまぶしい笑顔だったのが印象的で、それは不可思議なのだけど、わたしはなんだか納得してしまった。

全体の雰囲気はドキュメンタリータッチで撮られているのだが、振り返ってみると次から次へと細かい場面が浮かんできて、エピソードや演出が細やかなのがわかる。丁寧に丁寧に作られた作品だ。また、子役たちがとにかく皆素晴らしく、彼らの細やかな表情を引き出した監督の手腕も評価されるべきだろう。とくに子供たちの母親代わりを務める長男役の柳楽優弥は、途中で声変わりもし、背も伸びて顔つきが変わってくるのを、一年もかけてゆっくり撮っているので、置き去りにされた長い時間の重みが画面に加わっている。観終わって、彼の笑顔が一番印象に残り、悲しいとも可哀想とも思わないのに、胸がいっぱいになった。

誰も知らない [DVD]

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