ロスト・イン・トランスレーション

http://www.lit-movie.com/
CM撮影のために単身来日したハリウッド・スターと、同じホテルに滞在していた人妻との心の交流を描いた作品。

アカデミーオリジナル脚本賞を受賞しているのだが、わたしとしては脚本そのものはあまり巧いとは思わなかった。うまく言葉にできない部分を浮き上がらせているという点において、どちらかといえば演出というか視点の勝利ではないかと思った。

主演のスカーレット・ヨハンソンは表情が豊かではなくて、アメリカ人にしてはむしろ硬直しているような印象を受ける。それがなんでここにいるんだろう、ここは異国なんだと気づいてしまった人間のようでもあって、彼女が演じた意義は大きかったと思う。また、どことなくソフィア・コッポラと印象がだぶり、コッポラの体験と視点が色濃く反映しているのが強く感じられた。東京の何を見るか、日本の何を見るか。映っている風景はどれも表面的(幾分アングラ的なのは映画人だからでしょうか)で、主人公たちは決して東京を愛したいと思っているわけではないのだ。

ここで描かれている異国の地で感じる疎外感というのは、大都市ならではかもしれない。あるいは東京だからなのか。言葉が通じない、文化が違う、そしてそれ以上に人との関わりが、あの有名な渋谷交差点を流れていく車のようで、誰とも繋がっていないことに気づいてしまった…そこから生まれた物語だと思う。

日本人のRとLの発音が下手なことや、勘違い通訳など、わりと日常的に起こり得るすれ違いはコミカルに描かれている。外国人が変な日本語を喋っているのを笑うような感覚かも。お互い様であるが、どうしたって可笑しい。個人的には、夫の友達というアメリカ人女性との会話がまったく噛み合わないシーンが一番面白くて、別の意味でも印象的だった。ロスト・イン・トランスレーションはこんなところにもあった。もう一人の主人公、ビル・マーレイは役名はあるけれど、たぶんビル・マーレイであって、なんだか可笑しい。彼もまたアメリカに残してきた妻とすれ違いの日々である。CMの契約料がいくらだったか忘れてしまったけれど、けっこう高額だったのでなぜ一人で来日しているのかは謎だった。あと、ヒロインが京都に行って白無垢の花嫁行列に出くわすシーンがあって、またまた調子がいいなあと思っていたら、わたしも2度目の京都で遭遇してしまった。

このささやかな交流を見ていると、東京に生きるものとしては身につまされるものがあった。

ロスト・イン・トランスレーション [DVD]

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