落下の王国 -The Fall-

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現実とファンタジーが混在している点で、『パンズ・ラビリンス』と少し似ているが、似ているだけに違いも際立つ。『落下の王国』は現実でも物語でも笑い、傷つき、泣き、そんな風にわたしたちの暮らしと近い目線で綴られた物語だ。この物語(ファンタジー)はある種の救いではあるけれど、あくまでわたしたちが生きているからこそ生まれ出てくるものである。常に現実を生きていることを忘れないそのスタンスは、ある意味ではファンタジーを弱くしてしまってはいるのだが、わたしたちの生きている世界も架空の王国に負けないくらい美しく、皆生まれてきてよかったと思える陽気さに満ちていて明るい。

映像、役者、音楽が素晴らしい。画面の隅々まで不思議な魔法がかけられているようだった。

ザ・フォール/落下の王国 特別版 [DVD]

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足を骨折し、失恋し、絶望の淵で動けないスタントマンの青年は自殺するための薬を少女に持ってこさせようとする。ここで語られる物語は、少女を惹き付ける為のもので、だから物語は平易だし彼女の望んだように進んでいく。しかし青年が自分の物語を取り戻し、彼女のための物語を続けることができなくなったとき、物語は急展開する。これは僕の物語だ!と泣きながら次々と登場人物を殺し、主人公までも殺そうとする青年に対し、少女はこんな物語はいや!と叫び返す。

ああそうだ、わたしたちは本当はいつだって「こんな物語はいや!」と言うことができるのだった。息の詰まるような映画ばかり、ニュースばかりが溢れているこの世の中で、そんな風に叫ぶことができることを、なんだか今初めて知った気がする。ここ何年かずっと、「どうか、その先を教えて欲しい」と感じていた様々なことに対する閉塞感が、一気に取り払われた気がする。