アリス・イン・ワンダーランド
『不思議の国のアリス』を先に読んでおいた。アリスの破壊力に結構驚いたが、映画ではごく普通の女の子だ。彼女の住む世界では十分に変人ではあるという位置づけではあるけれど、彼女の顔がすでに思い出せない。
この作品をもっとも面白く観る鑑賞法としては、期待度を下げるより、ティム・バートンの作品ではないと自己暗示をかけるのがよいのではないか。というのも、彼の変質的な嗜好はビジュアルにはやや観られるものの、キャラクタやストーリーからは読み取ることができなかった。『バートン作品である』という評価軸をもとにしてしまうと、凡作というよりむしろ駄作だと思う。
そもそもバートンはアリスが好きなのか?
ジョニー・デップ演じる帽子屋はアリスを主人公に、赤白の女王対決をメインに据えた以上は、どこまで行っても脇役でしかないはず。ワンダーランドの住人は基本フォーマットとしてすでに狂っているのに、”あえて狂わせた”マッド・ハッターが一番まともであるのは狙いなのか。どちらにしろこのマッド・ハッターの存在が邪魔であると思う。
アリスの目線で観ると、物語はシンプル。今回の物語はイノセント、冒険心、そして自分自身を取り戻すための儀式である。ただアリスの心情がワンダーランドにどう反映しているのかはよくわからなかった。妙に聞き分けのよくなったキャラクタたちに19歳(ちょっと世間に揉まれつつある)アリスの現実を見ることは可能だが…。
この作品の最大の見所は、赤の女王(ヘレナ・ボナム・カーター)と白の女王(アン・ハサウェイ)の姉妹対決。愛されたい・けれど愛されない姉と、愛など信じていない・けれど愛される妹。主張は交わることなく、あっさりと前面対決へもつれ込む。殴り合いでもすればすっきりするのだろうけど、どこまでもしたたかな妹は指先ひとつで勝利する。”(自分は)殺生をしないと決めたから、あなた戦って”、と悪びれもなく言える白の女王のキャラクタは、可愛らしい容姿であるだけに、かなり迫力がある。一方、面白すぎるカーターの赤の女王のイノセントは、ラストわたしたちの心にひっそりと余韻をくれた。
しかしアリスはそのへん、わりとどうでもいいようだった。ストーリーは破綻していないが、作品としては破綻しており、ティム・バートンの『不思議の国のアリス』への愛が感じられない残念な作品だった。
http://www.disney.co.jp/movies/alice/
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